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Tableauをデータリテラシーが高くない現場に導入して使い倒してもらうコツ

こんにちは。レッジのデータサイエンティストの松本です。

レッジでは、クライアント先に常駐してデータ・ドリブンな課題解決に取り組んだり、ダイナミックプライシングアルゴリズムを受託開発したり、クライアント先へのBI導入の推進など、幅広くデータ利活用に関わる業務に取り組んでいます。

さて、Tech Blog記念すべき一発目の記事ですが、クライアント先へのBI導入を推進した経験から学んだ、 Tableauをデータリテラシーが高くない現場に導入して使い倒してもらうコツ について書こうと思います。

以前、クライアント先に常駐し、営業部門へのBIツール Tableauの導入をサポートしたことがありました。Tableauを含め、BIツールはデータリテラシーの高いデータサイエンティスト・アナリスト・マーケターにとって現状把握から仮説構築までサポートしてくれる大変ありがたいものです。ただ、 データリテラシーが高くない現場の方にとってBIツールの利用はかなり敷居が高い と感じるでしょう。 今回はそういった現場にTableauを導入した経験を振り返ります。

そもそもなぜTableauを使ったのか?

もともとTableau DesktopやTableau Serverのライセンスがマーケティング・企画部門にいくつかあったためです。1Tableauのダッシュボードやワークシートを複数人で共有する際に一般的に使われるのはTableau Serverだと思いますが、 各種データソースへのアクセス権限とライセンスの都合上、営業全員がTableau Serverを使うことはできません でした。
そこで、選択肢に浮上したのが無料ライセンスのTableau Readerで営業部門に展開することでした。Tableau Readerは、データソースがパッケージ化されているTableauワークブック(パッケージドワークブック:twbxファイル)を読み込むことができます。 あらかじめデータソースをアクセス可能なデータのみに絞り込んでパッケージ化しておくことで、データソースへのアクセス権限問題も解決 できました。

図1. Tableau活用イメージ

Tableauでデータ利活用を推進する目的

Tableauを営業部門に導入して活用してもらう目的は「マーケティング・企画部門の工数削減」と「営業が見られるデータの鮮度を高めること」の2つでした。

マーケティング・企画部門の工数削減

従来の営業部門のデータ活用といえば、データ管理部門から週次で送られてくる営業担当先の業績をまとめたExcel帳票を確認するくらいのものでした。2 そのExcel帳票にはない指標を確認したかったり、もっとセグメントを切って分析したい場合などは、その都度ITリテラシーの高いマーケティング・企画部門にデータ取得依頼をする必要がありました。

もちろん、そういった営業部門からのデータ取得依頼の頻度が少ない場合は、マーケティング・企画部門内でうまく工数をやりくりして対応できますが、非定期に行われるキャンペーンなどのために確認したい指標が増えてデータ取得依頼が頻発すると、マーケティング・企画部門内で依頼を捌き切れずに本来の業務に支障が出たり、営業部門へのデータ提供が遅くなってしまいます。

ただ、 営業部門からのデータ取得依頼を棚卸してみると、型化できたり、依頼した営業担当以外でも活用できるものが多々ある ことに気付きました。 これをTableau Readerで統一フォーマットで営業部門に提供することでマーケティング・企画部門へのデータ取得依頼が減り、工数削減につながると考えたのです。

営業が見られるデータの鮮度を高める

営業部門からマーケティング・企画部門へのデータ取得依頼の納期は最大2週間と取り決めていました。

とはいえ、データ取得依頼をかけてから2週間もたってから結果を把握しているようではPDCA3でいうところのCheckが時間的なボトルネックになるため、PDCAサイクル自体が長くなってしまいます。 特にスピード感あるビジネスにおいては、簡易な仮説検証で2週間以上も時間がかかってしまうと、仮説構築時とアクション時の環境/市場が変わってしまうために仮説を作り直す必要が出てきます。

しかしながら、Tableauを使えばこういったデータ分析のPDCAサイクルを短縮できます。 Tableau Readerを利用して営業部門にダッシュボードを配布し、週次でデータ更新することで営業部門が見られるデータの鮮度を高められます。 これによって、営業は今まで以上にPDCAサイクルを高速に回すことができるようになるのです。

サクッとリリースするも営業に使ってもらえず

営業部門が必要としている数値のモニタリング(viz)をTableauで実装し、ダッシュボードとして表現することは造作もないことでした。 業務の合間を縫ってほんの1週間程度で営業部門へ展開するためのTableau ダッシュボードを作成できたのを覚えています。4 しかし、営業部門の要望通りに自信満々、早々にリリースしたはいいものの当初は全く営業部門内で使ってもらえませんでした。

なぜ営業に使ってもらえなかったのか?

営業からちらほらと上がってきたフィードバックを総合すると、どうやら ダッシュボードを見てもどうアクションに結びつければ良いのかわからないことが原因 だったようです。 要求されていた営業部門が確認したい数値は全て網羅していても、その数値を見て具体的に次に何をすればいいのかがわからないのでは、ダッシュボードを使うモチベーションを保てません。 ダッシュボードの目的は可視化されたデータから次にどんなアクションをするかを導くこと です。 利用者の観点に立っていない、作成者本意のダッシュボードを作ってしまったのは大きな失敗でした。

コアなファンを作って広めてもらう

ダッシュボードを使ってもらうためには、営業が担当先のダッシュボードを見て、具体的な提案に繋げられるイメージが必要です。 とはいえ分析側の自分にはそのイメージがない(現場感がない)ので、営業にヒアリングし、普段どうやってクライアントに提案をしているのかを把握することにしました。

ここでヒアリング対象に選んだのは営業の中でもデータ活用が得意な方でした。 その方はリリース当初からTableauはかなりポテンシャルを秘めたツールだと感じてくれていたようで、積極的にヒアリングに協力してもらえたことが功を奏しました。 ヒアリングした結果をダッシュボードに実装し、またヒアリングするということを繰り返すことで、よりデータからアクションに繋げられるダッシュボードになっていきました。

その後、営業部門を対象にTableauダッシュボードの説明会も行いましたが、 営業部門内で爆発的にTableau利用が広まったのはヒアリングに協力してくれた営業の方(コアなファン)が他の営業の方に布教してくれたことが大きな要因だった と感じています。 コアなファンがTableauを営業間にお勧めしてくれたことで営業内のTableau利用が加速した のでした。

Tableau展開による効果

Tableauを営業部門に展開することで、当初想定していた目的を達成できたとともに、「営業がアポイントの準備にかける時間が短縮された」、「データドリブンな提案が標準化されることで担当先の引継ぎを容易にした」という効果もありました。

営業がアポイントの準備にかける時間が短縮された

従来、営業が担当先にアポイントする際、事前にExcel帳票を営業自らが加工して、担当先に合わせて集計したり可視化したりして準備していました。 特に担当先を複数抱える営業にとってはこの作業はかなりの工数になります。 これが Tableauの導入によって、アポイントの準備にかける時間はほぼゼロになり、ダッシュボードを見るだけで現状把握から次のアクションまで提案できる ようになりました。

データドリブンな提案が標準化されることで担当先の引継ぎを容易にした

営業部門内で、Tableauを活用してどうやって提案するのかについての勉強会が活発に開催されるようになりました。 こういった勉強会で営業各自のナレッジが共有されることによって、ダッシュボードからどう提案にもっていくのか?という提案方法が標準化されました。

人事異動が激しい組織では引き継ぎコストが多く発生します。 特に、営業の提案方法が属人的だとかなり引き継ぎコストがかかってしまいます。 これがTableauの導入によって提案方法が標準化されることで、容易な引継ぎを可能にし、さらに提案の質の向上にもつながりました。

最後に

Tableauに限らず、ダッシュボードの目的は可視化されたデータを見て具体的な次のアクションにつなげることです。 どんなに綺麗でテクニカルなダッシュボードを作っても、現状把握はできても次のアクションが思いつかないようでは単なる自己満足に終わってしまいます。現場に使われるダッシュボードを作成するためには、作成者本意ではなく現場目線を取り入れるという姿勢が重要だと思います。


  1. まずは既存のBIツールを活用してみるというのは良くあることだと思います。

  2. Excel帳票で見られる数値の変更をデータ管理組織に依頼するのは、マーケティング・企画部門への依頼と比べると格段にコミュニケーションコストがかかります。

  3. ここでいうPDCAサイクルとは例えば、担当先の業績推移をみて、特定のセグメントに対する対応方法を改めるなどの仮説を立てる(Plan)。作った仮説をもとにキャンペーンを提案して担当先に実行してもらう(Do)。提案したキャンペーンが効果があるか否かを検証する(Check)。検証結果をもとに仮説の再作成やキャンペーンの本運用などのアクションを実施する(Action)を指します。

  4. データソースを絞り込んでパッケージングしたり運用の自動化をしたりする工程が一番大変でした。技術的に工夫した点はQiitaに投稿しています。
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